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医師会たより127号から

 巻頭言

野菜の値段

    川西湖山病院 乾 清重

 野菜の値段 川西湖山病院 乾 清重 今年の夏は暑かった。現在100坪程の農地を借りて畑を耕しているが、農作業中に熱中症になるのではないかと思う日もあった。暑い中、決して少なくない汗を流したが、隣の畑との出来具合の差は歴然としており、自分の力量不足が悲しいものである。隣の耕作者からは、医者でも作物の診断はできないんだね、とからかわれ苦笑いの日々が続いている。かくしてできあがった作物は人様に見せるのも恥ずかしいものだが、採りたては美味しいだの、無農薬だから安心だぞと独り言を吐きながら自己満足に浸っている。しかし、その自己満足は、スーパーに並んだ美しく立派に育った野菜の値札を見ることによって霧消してしまう。中国産野莱の農薬問題以来、値段より安心と思うようになり幾分胸中が安らいだが、この安い値段で立派な美味しい野菜が手に入るのであれば、畑にでかける意欲は萎えてしまう。生産性が悪い自分の農業技術を棚にあげて、考えついた結論はスーパーの野菜が不当に安いというものであった。
 
以前日本の米が外国産の米と較べて高いから自由化すべきとの議論が盛んな時代もあった。物の値段が安いことは結構なことだが、現在の農作業が投下労働時間や必要経費から生業として成立するかどうか考えると、どう転んでもスーパーの野菜価格と自分が設定する価格の乖離は数倍にもなってしまう。耳にした専業稲作農家の年収も、生産される米の量からみると一寸信じられないものである。やはり、何を作るにせよ労力に見合った見返りが整合しないと、来年も頑張る気力が生まれないだろうと、複雑な思いが交錯する。
 
農業に眼らず事業の継続発展には、適正な価値の評価が必須の用件となると思われる。このことがないがしろにされれば、いずれその事業は衰退せざるを得ないし、特にその地域での供給と消費、地産地消が絶対条件となる産業ではこのことは特に重要と思われる。この観点からは農業以上に医療福祉業界が危機的状況に置かれているのかもしれない。医療福祉政策は頻回に方針が変更されるが、労働に対する適正価格、適正報酬という観点が議論の上位に来ることが少ないように思われる。厳しい我が国の財政状況のため、今後国民医療費の増加が許されないのであれば、医療資源の有効利用、資源節約を地道に進めるしかないのであろう。低い給与水準のために介護士の離職率が高いことや、病院の赤字による部門縮小や撤退が問題となっているが、隣の芝生が青く見えるためか、医療関連業種の好況に釈然としないものを感じる。労働に見合った報酬、診療内容に見合った診療報酬、効能に見合った薬価、性能に見合った医療機器価格があってしかるべきであるが、残念ながら現実には大きな乖離が存在している。新薬の価格は特許が切れた旧来薬品の20倍以上になることが珍しくないが、費用対効果による薬価設定ではなく、開発費から逆算した薬価設定であるのであろう。しかし、設定価格に見合った効能の向上が明瞭に認められないのであれば、雨後の筍の如き新薬が梓上されることは疑問である。パソコンと比較することは適切ではないが、性能向上価格低下が新商品開発にあたって普遍的に求められている普通の業界とは全く次元が異なる。しかも、国全体の医療費が抑制されている状況のもと、毎年毎年副作用が発覚して泡沫のように消え去る新薬が後を絶たない中で、旧来薬品との性能差とかけ離れた薬価設定が認められることは国民医療費全体を見渡して考えると残念である。労働に対する適正価格、適正報酬という観点が、早く主人公の地位を取り戻して欲しいものである。
 
現在勤務している病院に赴任して3年になるが、療養型病院の特質である長期療養入院による十分な経過観察時間により、急性期病院ではなかなか実感できない自然治癒力の大きさに気づかされる。骨髄内の幹細胞による再生医療の研究をしていた際に、幹細胞が各臓器による分化誘導を受け特殊機能を有する細胞に変化していく様子を観察して自然治癒のメカニズムの神秘に感動したが、現在は一人の患者さんの体全体が長期の療養により次第に回復してくる様子に身近に接するようになり、同様の感慨に浸っている。自然治癒力を引き出す物質あるいは誘導法が確立されれば、長期の療養期間を待たずに短期間で回復の効果を見いだせるようになるのであろうが、その実現には若干の年月を要するのだろう。暗く長いトンネルに迷い込んだ現状の打破には、人間の持つ自然治癒力、社会が持つ自然治癒力がなんとかしてくれるのだろうと、気楽に過ごすのが、唯一の妙薬なのかもしれない。

医師会たより122号から

 巻頭言

医者にかかる 10 箇条:「治療方法を決めるのはあなたです」

    

公立置賜総合病院 加藤 滉

 この題名は、 NPO 法人ささえあい医療人権センター COML (コムル; Consumer Organization for Medicine and Law )の発行している小冊子からとったものです。最初にその 10 箇条を紹介しますと、「 1. 伝えたいことはメモして準備  2. 対話の始まりはあいさつから  3. よりよい関係づくりはあなたにも責任が  4. 自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報  5. これからの見通しを聞きましょう  6. その後の変化も伝える努力を  7. 大事なことはメモを取って確認  8. 納得できないときは何度でも質問を  9. 医療にも不確実なことや限界がある  10. 治療方法を決めるのはあなたです」とあり、 1 〜 8 は私たち医療者と患者さんがお付き合いしていくための基本です。そして 9 と 10 は、 COML からの提言・メッセージであり、患者側から見たインフォームドコンセントのすすめでもあります。私は数年前に、 COML 理事長 辻本好子さんの講演を聴いて、さっそく会員に加えてもらいました。今年の 6 月に山形市で行われた講演会にも出席し、ますます共感をおぼえました。 COML は、医学部の臨床実習教育に重要な役割を果たす「模擬患者( simulated patient )」の育成や派遣に協力する活動も行っており、医療側からも注目されている団体です。山形大学医学部でも、 12 月 7 日に講演会を予定しているそうです。この会の合い言葉は、「賢い患者になりましょう、あなたがいのちの主人公・からだの責任者」です。この 8 月、 1990 年の発足以来 16 年間にわたって行ってきた患者さんからの電話相談をもとに、「受診する、通院する、入院する! 120 の患者術」(医学通信社)という本を刊行しました。この本には、患者さんが主体的に医療と向き合うための「知恵と希望」が込められていて、実際に役にたつ内容になっています。ただしかなり中身が濃いので、読み通すにはそれなりの努力が必要でしょう。また、ここには 3 万 8000 件を超える相談から得られた患者側の本音が盛り込まれています。これは、医療を供給する側にとっても大いに参考になる事柄です。値段も手頃( 1200 円)ですから、ぜひ一度目を通していただきたいと思います。 COML についてもう少し詳しく知りたい方のために、連絡先を記しておきます。

NPO 法人ささえあい医療人権センター COML (コムル):

〒 530 ー 0047 大阪市北区西天満 3 ー 13 ー 9 西天満パークビル 4 号館 5 階電話 06 ー 6314 ー165 2 / FAX06 ー 6314 ー 3696   年会費 6000 円

 ところで、 TV や新聞では毎日のように「医療事故」や「医療に対する不満」が報道されています。私も、勤務先の公立置賜総合病院では医療安全対策委員長を勤めていますので、ひやりハットや苦情、事故の報告を受けるのが仕事になっています。報告数は年々ふえて昨年度はついに 1000 件を超えましたが、これはできるだけ報告するようにという指導が行きわたってきた成果でしょう。このうち「苦情」についてみると、やはり「接遇」すなわち患者さんへの応対や説明不足に関するものが最多です。内容は患者さん側から見てもっともなことが多く、医療者として反省させられることがしばしばです。たとえば、「検査結果は異常なし」という対応への不満をよく耳にします。「異常なし」とは、予想していた病変や症状を説明する病変を「その時点で/この検査では」「見つけられなかった/病的とは診断できなかった」だけであって、必ずしも「正常である」ことを意味しているわけではありません。苦しんでいる患者さんに対して、私たちは簡単に「検査で異常なしだから治療は必要なし」などと言わず、もっと謙虚にもっと慎重に診療を行うことが重要でしょう。ただし時には、私たち医療側のいい分も聞いてほしいこともあります。先の 10 箇条でいえば、「医療にも不確実なことや限界がある」のです。病院や医療に関して患者さん側の一番大きな誤解は、「病院へ行けば/治療を受ければ、治る」であり、しかも「治る」=「元気な頃に戻る、元通りになる」と信じて?いる人が少なくないようなのです。これはある意味では「希望」であり「祈り」なのかもしれません。医師であればだれでも(おそらく患者側も)知っているように、実際には治療してもそのまま死亡したりむしろ悪化したり、またすっきりと治らなかったり何らかの後遺症が残る病気も多く、病気は治っても身体は元へ戻らないこともまれではありません。医療側の「治る」(=病変がなくなる、おさまる)と患者さんの期待する「治る」(=元気な頃に戻る、元通りになる)には開きがあるのです。医療側と患者側の誤解を減らすためにも、単に「治る」ではなくもっとはっきりと詳しく具体的に、残る症状も含めて治療の効果と欠点を説明し、わかりあうことが必要です。それでようやく、真のインフォームドコンセント「治療方法を決めるのはあなたです」が実行できるのではないでしょうか。その上で患者さんを適切に支えていくことが、医療者のつとめであると考えます。

 

医師会たより121号から

 巻頭言

私のストレス解消法

公徳会佐藤病院 院長 沼田由紀夫

 「三日間幸せになりたかったら豚を殺して食べなさい。三年間幸せになりたかったら結婚しなさい。一生幸せになりたかったら釣りを覚えなさい。」という中国の諺があります。20年程前に渓流釣りの手ほどきを受け、以来その深みにはまってしまいました。私の釣り方はミャク釣りといって釣針にエサを付け、浮きは付けずに糸に目印を付け、釣り糸を通してアタリを感じ、魚(主に岩魚)を釣る方法です。昔、高貴な人の脈をとる際に医師は直接手首等に触れるのは恐れ多いとして、手首に糸を結びその糸を通して脈診を行なったと聞いたことがありますが、「脈をとる」イメージから来た言葉なのだと思います。
 渓流釣りの解禁は3月1日から9月30日迄で、産卵期に入る10月からは禁漁となります。山形では3月になってもまだまだ雪が多いためカンジキを履いて釣りをする事になります。毎年初釣りの日には御神酒を川に注ぎ、大漁と身の安全を祈願しつつ手を合わせることにしています。その年に初めて釣れた岩魚は大物・小物に関わらず「よく釣れてくれたね。ありがとう。」と心の中で感謝しつつ口にエサを入れてからリリースし、2尾目からビクに入れるというのが私の流儀です。
 4月〜5月に入ると雪が次第に消え、そこかしこにフキノトウが顔を覗かせるので何個か摘みとり家で天ぷらにして春の香りを楽しみます。それからは春が弾けたかの如くコゴミ・アブラコゴミ・タラノ芽・山ウド・ウルイ・ミズナ等、山菜のオンパレードとなるため、釣果が乏しい日は山菜採りに専念することにしています。リュックには携帯ガスバーナーを入れて行き、時にはインスタント山菜ラーメンを作って食べるとこれがまたうまいのです。岩魚は塩焼きがスタンダードな食べ方ですが、山で食べる時は開いた腹に味噌を塗りフキの葉で二重三重に包み焚火に放り込んで「フキ蒸し」にします。尺物が釣れたら刺身かカルパッチョにしていただくと酒が進みます。ただし、寄生虫が怖いという方にはお勧めできません。
 数年前、小国町の荒川支流樋の沢に入渓すべく杣道を歩き日陰の湿った場所にさしかかると、枯れ葉の間から銀白色のツクシのようなものが出ていました。よく見るとそれは銀竜草でした。イチヤクソウ科の菌根植物で葉緑素を持たず、茎と葉は白色で全体が半透明でとても美しい姿をしています。教科書や植物図鑑でしか見たことがなかったので、感動したのを覚えています。その姿を見るために毎年1回は樋の沢を訪れることにしています。植物との出会いもさることながら、さまざまな動物との出合いも楽しいものです。10年程前に内科の若い先生が釣りをしたいと言うので、小国の足水川に連れて行った時の事です。車に乗って行ったのですが、「そろそろこの辺で釣ろうか。」と停車したところ熊が川を渡っていました。釣り場を変更したのは言うまでもありません。渓流ではカワガラスという鳩を小型にした様な真っ黒な鳥が川の案内をするかのように飛んでいて、時には水に潜ったりしています。岸辺では野ネズミの親子が一列縦隊となってヨチヨチ歩いていることもあり、微笑みを禁じえません。渓流釣りをする時は相手に気づかれないように気配を消し木や石と化せ、と言われますが一心不乱に釣っていた時に背後でズシンと大岩が落ちたような音がして、思わず「うわー」と叫んだ事もありました。カモシカが崖から飛び降りた音でした。カモシカも驚いたとみえて、私の顔をジッと見つめていたので刺激しないようにその場を離れました。野鳥の鳴き声がやけにうるさいので木立ちを仰ぐと、実は猿の群れだったこともありました。変な侵入者が居るので猿達が警戒していたのでしょう。これも今では楽しい思い出となっています。
 渓流釣りは、言わば森林浴をしているようなもので更に上流を目指して数キロは歩くため足腰も鍛えられ爽快感が味わえます。ただし常に危険を伴うため一人で入渓する時は比較的安全で通い慣れた場所を選ぶ必要があります。また万一に備え家族には必ず行き先を告げることにしています。言語のやりとりを必要としない自然との対話が、今の私にとって無くてはならないストレス解消法となっています。

 
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